不妊治療では卵子提供も検討しよう

       

不妊治療には大きく分けて、「一般不妊治療」と「高度生殖医療(ART)」と呼ばれるものと2種類があります。

一般不妊治療と高度生殖医療(ART)とは?

妊活ではまず婦人科クリニックでの初診検査を行います。
検査で特に問題が見つからなかった場合には、まず一般不妊治療からスタートします。一般不妊治療には、タイミング法、人工授精(AIH)があります。
一般不妊治療を何度か試して成功しない場合には、体外受精などの高度生殖医療にステップアップしていくのが、日本の場合は一般的な流れとなっています。

タイミング法とは?

タイミング法は一言で言えば、排卵日を予測して性交渉するというものです。
妊娠するには、排卵後、卵子が生きている半日から1日程の間に精子と出会う必要があります。このために、排卵日の2日前から排卵日までに性交渉があると妊娠し易いのです。
排卵日を予測するためには、2つの方法があります。一つは自分で基礎体温をつけて、排卵日を予測する方法。
もう一つは医師の指導を受ける方法です。卵胞の大きさや尿中のホルモンを測定し、排卵日を測定します。排卵日の周辺で数回の通院が必要としているクリニックが多いようです。

排卵誘発剤を使用して卵巣刺激を行い、排卵を起こしてタイミング法や人工授精をすることもあります。
排卵誘発法は、本来は月経不順で卵巣機能不全が疑われる場合や排卵障害のある患者さんに対して、排卵を起こすという目的の為に使われる治療でしたが、人工授精での妊娠率を高める目的や、体外受精などの生殖補助医療の際にも広く使われるようになっています。排卵誘発剤を使用したタイミング法は保険適用になります。

人工授精とは?

人工授精は採取した精液から運動している精子だけを洗浄・回収し、妊娠しやすい期間にチューブを使い子宮内に注入する方法です。
この方法では、精子が卵子と出会うための移動距離を短くすることができるので、受精の可能性を高めることができます。
厚生労働省による厚生科学研究のデータによると、人工授精で妊娠した例の約80%は7回目以内に妊娠しているようです。その例での治療回数の平均は4.6〜3.6回となっています。

基礎体温表をつける
基礎体温表をつける

体外受精とは?

体外受精では、まず排卵誘発剤を使って卵巣を刺激して卵胞を育てます。
卵胞が育ったら、経膣で卵巣から卵子を採取(採卵)して、あらかじめ採取してあった精子と受精させます。
シャーレに入れた卵子に、培養士が洗浄・濃縮処理を行った精子を振りかけ、培養器にいれて自然に受精するのを待ちます。
体外受精とは、培養器の中で受精卵となった卵子を、移植できるようになるまで培養し、それを子宮に移植する方法を言います。
日本での臨床応用は1982年からです。体外受精は人工授精の一般不妊治療では妊娠しない場合に行われることが多い治療方法です。

顕微授精とは?

体外受精の中でも、受精のプロセスを人の手で行うものを顕微授精と言います。
通常の体外受精では卵子と精子をシャーレに入れて、自然に受精するのを待ちますが、顕微授精では顕微鏡下で卵子の中に1個の精子を直接注入します。
現在主流になってい顕微授精の方法は、細胞質内精子注入法(ICSI)で、顕微鏡で覗きながら髪の毛ほどの細井ガラス管で精子を吸い込み、卵子の細胞質に刺して注入します。
ICSI(イクシー)による受精の確立は非常に高く、平均70%から80%と言われています。

卵子の老化が不妊の原因

不妊治療の方法にはこのように、いろいろな種類がありますが、これらの治療において注意が必要なことは、あくまでも精子と卵子にそれぞれ妊孕性(にんようせい。=妊娠する力)が残っている、という場合にのみ有効であるということです。
女性は35歳以上になると、妊娠率の低下のみならず流産率も増加してきます。これは加齢による卵子の染色体異常や受精後の胚の発育不良によって起こると考えられています。
女性の加齢により、卵子の質の低下が起きることは様々な事実からも明らかになっています。
ただし、何故卵子の質が低下するのか?というメカニズムは明らかになっておらず、残念ながらその予防法がないというのが現状です。

自己の卵子を用いた治療では、女性の加齢に伴い、妊娠・生産率は低下します。しかし、若い年齢の女性からの卵子提供を受けると、女性の加齢による妊娠・出産率の低下はみられなくなります。
これはつまり、女性の加齢に伴った妊孕力低下=卵子の質の低下、が主な原因であることを示しています。

卵子提供 顕微授精

卵子提供の成功率は?

米国疾病予防管理センターの生殖補助医療統計によると、卵子提供での出生率は50%〜70%となっています。
自己卵での不妊治療では閉経年齢に差し掛かる45歳以降は殆ど出生を望めないといえますが、若い健康な女性から提供された卵子を用いた場合は、その45歳を過ぎても50%超の出生率を示しています。
これはいかに若い卵子の力(ちから)が妊娠・出産において重要な役割を担っているかを明確に示すものだということができます。
この妊娠確率は、米国疾病予防管理センターの生殖補助医療統計におけるデータです。個々のクリニックの実績・成績は異なるものになります。この数字はあくまでも「平均値」であるため、各クリニックの実績データを確認することが大切です。ご存知のとおり、「平均値」とは「真ん中」の値、となりますので、成功率の高低にはかなりの開きがある、ということを念頭にクリニックの選定をしたいものです。

高い成功率の裏に潜むリスクとは?

卵子提供エージェンシーがホームページやWEBサイトで掲げている成功率のデータの中には、通常では考えられないような高率の成功率があり驚くことがあります。
(中には成功率90%などと謳っているエージェンシーもあり)
しかしながら、よくよく聞いてみると、高率の成功率の裏にはカラクリがあって、「胚盤胞を2個同時に子宮に移植した場合の成功率」だった、ということもあるのです。
ドナー卵子による受精卵は着床率が非常に高いため、1個1個の受精卵は高い着床の確率を持っています。
2個同時の移植では、多胎のリスクがあるので注意が必要です。
卵子提供を受ける奥様は一般的に高齢出産であることが多く、多胎妊娠では早産未熟児の産まれる可能性がとても高い上に、母体への負担も非常に大きいのです。
このような高い妊娠成功率を謳っているようなクリニックや卵子提供エージェンシーは信用できないと考えた方がいいでしょう。

PGSの技術が発達した現在では、「1回の移植においては1個の胚を」ということが主流となっています。
ただ、強い希望があった場合、(子宮の状態にもよりますが)同時に移植できる胚盤胞は2個までとしているクリニックが多いようです。
胚盤胞にまで育った胚をより多く移植すれば、その分、妊娠の確率は高くなりますが、多胎のリスクがあることには充分に留意する必要があります。
いくら妊娠の確率を上げるためとはいえ、むやみに移植する胚盤胞の数を増やして、多胎妊娠の可能性を高めることは避けた方がいいのです。

これらのことから、卵子提供プログラムによる妊娠の成功率を比較する場合には、表面的な成功率を見るだけではなく、いくつの胚を移植をしてその成功率となったのかを、必ず確認することが大切です。

たとえ成功率が高くても、移植した受精卵の数が多ければ多胎妊娠のリスクが高まります。まずは正しく情報を見極めましょう。